遺言はなぜ必要? 作成する意味や遺言書の種類とは

遺言書は、ご自身が築き上げた大切な財産を、将来どのように託すかどうかを定めるための重要な書類です。多くの方が、遺産分割におけるトラブルを避けるために遺言書を作成することを検討されます。

もちろんこれは、遺言書を作成する大切な目的でしょう。

しかし、私たちが大切にしているのは、それだけではありません。遺言書は、故人の人生観、価値観、そして大切な人たちへの想いを、次の世代へと受け継いでいくための方法でもあると考えています。

遺言書はなぜ必要?

まず、遺言書の基本的な必要性について改めて確認しましょう。遺言書がない場合、遺産は民法の定める法定相続人の間で分割されます。しかし、それぞれの相続人の状況や考え方が異なるため、遺産分割協議が難航し、親族間の関係が悪化してしまうケースも少なくありません。

【遺言書がない場合に起こりうるトラブルの例】

  • 遺産分割でもめて、仲が良かったはずの子ども同士が争いになる。
  • 介護に尽力した長女に多くの財産を残したいと考えていたが、他の兄弟と同等の相続分しか認められない。
  • 事業を後継者に承継させたいのに、他の法定相続人が事業用資産の分割を主張したために、円滑な事業承継ができなかった。
  • 疎遠になった法定相続人と連絡が取れなかったり、協力してもらえなかったりしたことで、遺産分割が難航して財産を処分できず、相続税の支払いができなかった。

遺言書があれば、このようなトラブルを未然に防ぎ、故人の意思に基づいた円滑な財産承継を実現することができます。

遺言書は「心の相続」も実現する~形のない想いを未来へ~

世の中の遺言書のハウツー本やインターネット上の解説では、相続・遺言において受け継ぐものは預貯金、債権債務、不動産といった「財産」しか念頭に置いていません。しかし、遺言書は、故人の最後の言葉として遺すものであるため、財産を分けるだけではなく、そこに故人の想いを込めることも、私たちは大切なことだと考えています。

とはいえ、「遺言書に想いを込める」と言われてもイメージしにくいかもしれません。例えば、次のような方法が挙げられます。

感謝の気持ちや励ましの言葉を伝える

遺言書の末尾に「付言事項」として、家族への感謝の気持ちや、今後の人生を送る子孫に向けて温かいメッセージを添えることができます。

故人の想いを込めた品を受け継ぐ

当事務所では、故人から遺言書作成のご依頼を受ける際、先祖から受け継いでいる大切な物品や、思い出の詰まった品を子孫につないでいくお手伝いをさせていただいています。例えば、祖母から譲り受けた指輪や着物、亡父からプレゼントしてもらった時計なども受け継ぐことができます。

これらの動産は、法的には「古くて財産的価値がない」と評価されてしまいがちですが、遺族の立場からすれば、いくらお金を出しても買うことができない大切な物品です。そんな故人や遺族の想いに応えるため、故人の大切な物品を特定の家族へのメッセージと共に託す「心の相続」の支援をさせていただきます。

人生観や価値観、家族に対する希望を伝える

遺言書を作成する際、なぜそのような財産の分け方にしたのか、どのような想いでこれまでの人生を歩んできたのかなどを伝えることで、あなたの考えを次世代につなぐことも可能です。

「遺言書を作ろう」と思い立って実際に作り始めると、ご自身の人生を振り返って、さまざまな想いが溢れてくる方も多くいらっしゃいます。それを遺された方々に伝わる文章にするのは、意外と難しいものです。 私たちは、法律家として、遺言書が法的に正しく作られるようにお手伝いをするのはもちろん、遺言書を作成される方の想いを丁寧に聴き取り、伝わる文章を作り上げることも大切にしています。

遺言書の種類と「心の相続」

遺言書にはいくつかの種類がありますが、作成方法によってポイントが異なります。あなたの財産と想いを確実に承継するためにも、ご自身の状況に合った方法を選びましょう。

自筆証書遺言

ご自身が手書きで作成する遺言です。いつでも手軽に作成できるため、自分の言葉で率直な想いを伝えやすいというメリットがあります。その一方で、専門家のアドバイスを受けずに作成すると、形式に不備があったり、偽造の疑いや意思能力の有無を争われたりする可能性もあります。その結果、親族間の紛争が生じ、遺言書が無効になるリスクが一番高い方法でもあります。

公正証書遺言

あらかじめ遺言内容を作成した上で、公証役場に赴いて公証人の前で作成する遺言です。公証役場では、遺言を公証人が読み上げて内容に間違いがないかを確認します。公証人は、本人が遺言書を作成できる状態かどうかについても確認するため、偽造の疑いをかけられたり、意思能力の有無に関して争われたりする可能性を減らし、遺言書が無効になるリスクを最小限にすることができます。

秘密証書遺言

ご自身が作成した遺言(署名以外であればパソコンで作成可)を、封をして公証役場に提出し、自分の遺言であることを証明してもらう方法です。公証人は、本人の遺言が存在するかどうかのみを確認するため、自筆証書遺言と同様に、内容に不備があると無効になるリスクがありますが、偽造・変造の問題が起きるリスクはほとんどなくなります。

財産と想い、両方を未来へつなぐために

遺言書は、財産だけでなく、故人の想いや気持ちといったものも、大切な人へとつなぐことができる、非常に重要な手段です。

私たちは、お客さまの財産状況だけでなく、その想いにも寄り添い、未来への架け橋となるような遺言書作成のお手伝いをさせていただきます。 次回のコラムでは、遺言書の種類の中で最も基本的な「自筆証書遺言」の具体的な書き方について詳しく解説します。

弁護士 五嶋良順

●私立栄光学園卒業/明治大学法学部卒業/慶應義塾大学法科大学院修了
●2017年弁護士登録
●第二東京弁護士会所属
●生まれ育った地元・湘南の弁護士法人に約7年間勤務。交通事故、労働問題、相続問題、離婚問題、不動産に関する問題などの一般民事や中小企業法務の経験を積んだ後、鈴木・五嶋法律事務所を開設。1件1件の事件を専門家としてテーラーメイドな対応をしていくことを心がけている。

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