自分で書く「自筆証書遺言」の正しい書き方と注意点
- 2025.6.16

【前回の記事】遺言はなぜ必要? 作成する意味や遺言書の種類とは
前回のコラムでは、遺言書がなぜ大切なのか、そしてどのような種類があるのかについてご紹介しました。遺言書は、あなたの財産だけでなく、大切なご家族への「想い」を未来へつなぐための大切な手段です。
今回は、いくつかの遺言書の形式の中から、最も身近で手軽に作成できる「自筆証書遺言」に焦点を当て、その書き方や注意点について詳しく解説します。
自筆証書遺言は、費用もかからず、思い立った時にすぐ書けるというメリットがありますが、法律で決められたルール(要件)を守らないと、せっかく書いた遺言書が無効になってしまうことがあります。 「自分で書いた遺言書が無効だった…」。そんな事態にならないために、ぜひこの記事を参考にしてください。
自筆証書遺言を作成するための4つのルール

自筆証書遺言が法律的に有効だと認められるためには、以下の4つのルールを全て守って書く必要があります。一つでも欠けてしまうと、無効になってしまう可能性があるので注意しましょう。
1. 全文を自分で手書きすること(民法第968条1項)
遺言書の本文(誰に何を渡したいかなどを書く部分)は、必ず遺言者本人が、最初から最後まで全て手書きする必要があります。そのため、パソコンやワープロで作成したもの、他の人に代わりに書いてもらったもの(代筆)は認められません。
ただし、令和元年7月1日からは財産目録(どんな財産があるかをまとめたリスト)だけは、パソコンなどで作成しても良いと定められました。ただし、財産目録の全てのページに本人の署名と押印が必要です。
2. 作成した「日付」を正確に書くこと(民法第968条1項)
遺言書には、作成した年月日を正確に書く必要があります。もし複数の遺言書が出てきた場合、一番新しい日付のものが有効になるため、日付はとても大切です。
「令和〇年〇月吉日」といった書き方では、日付が特定できないため、遺言書全体が無効になる可能性があります。遺言書の日付を書く時は「令和〇年〇月〇日」のように、具体的に「何年何月何日」かが分かるように書きましょう。
3. 遺言者本人が署名する(民法第968条1項)
遺言書には、遺言者本人が署名する必要があります。署名は、戸籍に登録されている氏名を書くのが原則なので、ペンネームやニックネームは、原則として認められません。また、氏名の一部を省略したり、イニシャルだけで済ませたりすることも避けましょう。
4. 遺言者本人の押印も必要(民法第968条1項)
遺言書には、遺言者本人の印鑑を押す必要があります。法律上は、認印(シャチハタ以外の三文判など)でも有効とされていますが、実印(市区町村に印鑑登録してある印鑑)を使用するのがおすすめです。実印の方が、「確かに本人が作った遺言書である」という証明をする力が強くなるからです。
せっかく書いた遺言書を無効にしないための注意点

上記の4つのルールを守っているかはもちろん重要ですが、その他にも、自筆証書遺言を作成する上で注意しておきたい点がいくつかあります。
書き間違いの訂正方法
もし書いている途中で間違えてしまった場合、修正液や修正テープは使わず、間違えた箇所を二重線で消し、その横に正しい文字を書き加えてください。そして、訂正した箇所に必ず印鑑を押して、署名をします。この方法以外で訂正された部分は無効になる可能性があるので注意しましょう。
また、一度完成させた遺言書に後から何か書き加えたり、修正したりする場合も、書き間違いの訂正方法と同じ方法で行いましょう。
複数ページにわたる場合
遺言書が何ページにもわたる場合は、全てのページに「1頁/全3頁」のようにページ番号を振り、各ページの見開き部分に契印(けいいん)という形で印鑑を押すことをおすすめします。こうすることで、書類がバラバラになったり、途中のページが抜き取られたりすることを防ぐことができます。
使う筆記用具
遺言書は、後から書き換えられたり、消されたりしないように、消えないインクのボールペンや万年筆で書きましょう。鉛筆や消せるボールペンで書かれた遺言書は、無効となる可能性があります。
遺言書の保管はどうする?「検認」って何?

せっかく苦労して書いた遺言書も、ご自身の死後、家族に見つけてもらえなかったり、誰かに隠されたり、勝手に書き換えられたりしてしまっては大変です。また、自筆証書遺言は、相続が始まった後(本人が亡くなった後)に、家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを経る必要があります。
遺言書の保管方法
遺言書は、紛失や火災のリスクが少ない場所に保管しましょう。ご自宅の金庫や、銀行の貸金庫などを利用するのも一つの方法です。
ご自身が亡くなった後、遺言書を見つけてもらえるように、信頼できるご家族などに遺言書の存在や保管場所を伝えておくことも大切ですし、遺言を託す方を指定しておくのも良いでしょう。
また、最近始まった法務局での自筆証書遺言の保管制度を利用することもできます。この制度を利用すると、遺言書の紛失や改ざんの心配がほとんどなくなり、さらに相続開始後の検認手続きも不要になるという大きなメリットがあります。
検認手続きとは?
相続人の方が自筆証書遺言を見つけたら、必ず家庭裁判所に持って行き、「検認」の申立てをしなければなりません。
検認とは、簡単に言うと「遺言書が、亡くなった方が書いた時の状態のまま残っているか」を裁判所が確認する手続きです。遺言書の内容が正しいかどうか(有効かどうか)を判断する手続きではありません。
自筆証書遺言のメリット・デメリット

これまで見てきたように、自筆証書遺言には良い点もあれば、注意すべき点もあります。まとめて確認してみましょう。
自筆証書遺言のメリット
1. 手軽で費用がかからない
紙とペンがあれば、いつでもどこでも作成できます。公証役場に行く必要もなく、手数料もかかりません。ただし、法務局の保管制度を利用する場合は手数料がかかります。
2. 内容を秘密にできる
遺言書の内容を誰にも知られずに、ご自身の意思だけで作成できます。
3. 「想い」を手書きで伝えられる
ご自身の文字で書くことで、受け取ったご家族に温かい気持ちが伝わりやすいかもしれません。また、付言事項で伝えたいメッセージを自由に書くこともできます。
自筆証書遺言のデメリット
1. 形式不備で無効になってしまうリスク
法律で決められた書き方のルールを一つでも守っていないと、無効になってしまう可能性が比較的高いです。遺言書を作成する時は、きちんと注意点をチェックしておきましょう。
2. 紛失や改ざんの心配
ご自宅などで保管する場合、火事などで燃えてしまったり、誰かに発見されて勝手に書き換えられたりするリスクがあります。ただし、法務局保管制度を利用すればこのリスクはなくなります。
3. 遺言の有効性を巡って争いになる可能性
遺言書に書かれている内容について、相続人の間で意見が対立し、「本当に本人の意思なのか?」「本人には遺言を書くための判断能力がなかったのでは?」「他の相続人の偽造では?」といった争いになってしまうことがあります。
4. 検認手続きが必要
相続が始まった後、家庭裁判所で検認という手続きをしなければなりません。また、法務局保管制度を利用する場合は、この手続きは必要ありません。
あなたの想いを確実に届けるために
自筆証書遺言は、手軽に作成できる一方で、法律で定められたルールを守ることが非常に大切です。せっかくあなたの想いを込めて書いた遺言書が、手続きの不備で無効になってしまわないように、今回ご紹介したポイントを参考にしてください。
もし、自筆証書遺言の作成にご不安がある場合や、「遺言書の内容について専門家のアドバイスを受けたい」「より確実に遺言書を作成したい」とお考えの場合は、別の種類の遺言書を検討することも可能です。
特に、「形式の不備で無効になるリスクを避けたい」「検認手続きの手間をなくしたい」「遺言の有効性を巡る遺族の紛争リスクを減らしたい」という方には、「公正証書遺言」がおすすめです。次回のコラムでは、この公正証書遺言について、その作成方法やメリットについて詳しく解説します。
私たち鈴木・五嶋法律事務所では、遺言書を通じて、あなたの「財産」と大切なご家族への「想い」が、未来へきちんとつながるよう、親身にお手伝いさせていただきます。遺言書の作成に関するご不安やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

弁護士 五嶋良順
●私立栄光学園卒業/明治大学法学部卒業/慶應義塾大学法科大学院修了
●2017年弁護士登録
●第二東京弁護士会所属
●生まれ育った地元・湘南の弁護士法人に約7年間勤務。交通事故、労働問題、相続問題、離婚問題、不動産に関する問題などの一般民事や中小企業法務の経験を積んだ後、鈴木・五嶋法律事務所を開設。1件1件の事件を専門家としてテーラーメイドな対応をしていくことを心がけている。