安心で確実な「公正証書遺言」の作成方法とメリット
- 2025.7.24
【前回の記事】自分で書く「自筆証書遺言」の正しい書き方と注意点
前回のコラムでは、ご自身で手軽に作成できる自筆証書遺言の書き方や注意点をお伝えしました。手書きで想いを伝えられる魅力がある一方で、形式の不備や紛失のリスクといったデメリットもあります。
今回は、そんな自筆証書遺言のデメリットをカバーし、「より確実に、法的に有効な遺言書を作成したい」という方におすすめの「公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)」について詳しく解説していきます。
公正証書遺言とは? なぜ「安心確実」なの?

公正証書遺言とは、公証役場(こうしょうやくば)で、公証人(こうしょうにん)という法律の専門家が、あなたの話を聞いて作成する遺言書です。
公証人は、元裁判官や検察官、弁護士など、法律の知識と経験が豊富な専門家が担当し、遺言書が法律のルールに沿って間違いなく作成されるようサポートします。
公正証書遺言を選ぶことで得られる7つの大きなメリット

公正証書遺言は、手間や費用がかかる側面もありますが、それを上回る多くのメリットがあります。特に「確実に遺言書を残したい」「残された家族に負担をかけたくない」という方に、強くおすすめできる方法です。
公正証書遺言を選ぶことで、次のような安心感とメリットが得られます。
- 複雑な財産や相続関係も整理して残せる
複雑な相続財産や相続関係でも、公証人が専門家の視点から内容を整理し、法的に間違いのない形で遺言書を作成してくれます。
- 遺言書が無効になるリスクが極めて低い
自筆証書遺言と異なり、法律の専門家である公証人が作成するため、形式の不備で遺言書が無効になる心配はほとんどありません。
- 遺言書を書く体力が低下していても作成できる
全て手書きが必要な自筆証書遺言と違い、公正証書遺言は公証人が作成するため、ご自身で文字を書く必要がありません。体力が低下している方や、病気などで字を書くのが難しい方でも安心して作成できます。また、別途、出張費や交通費実費が発生しますが、公証人がご自宅や病院などに出張して作成してくれる制度もあります。
- 相続が発生した後、手続きがスムーズに進む
自筆証書遺言だと必要になる家庭裁判所での「検認」手続きが、公正証書遺言の場合は不要です。そのため、ご家族は遺言書の内容に沿って、速やかに相続手続きを進めることができます。
- 遺言書の紛失・改ざんの心配がない
原本は公証役場で厳重に保管されます。そのため、自宅保管による紛失や改ざんのリスクがなく、電磁的記録による二重保存システムもあり、災害時にも原本が失われる心配がほぼありません。
- 遺言書の存在を全国どこからでも確認できる
公正証書遺言の情報は、全国の公証役場で共有される「遺言情報管理システム」に登録されます。そのため、ご自身が亡くなった後、相続人などが全国どこからでも遺言書の有無を確認できます。
- 本人が亡くなった後に争いが起きるリスクが減る
公証人が遺言書作成時のあなたの判断能力を確認してくれるため、「認知症のため本人の意思で遺言書は書けなかった」などと後から相続人の間で争われるリスクを減らすことができます。
公正証書遺言の作成に必要な「証人」について

公正証書遺言を作成する際には、2人以上の証人(しょうにん)の立ち会いが必要です。これは「遺言者ご本人が自分の意思に基づいて遺言書を作成した」ことを確認するという大切な目的があります。
ただし、次のような方は、遺言の内容と直接関係があったり、公正な証言が難しい可能性があったりするため、証人になることはできません。公証人にも確認されるため、間違いが起こることはほとんどありませんが、もしこれらの資格がない人が立ち会った場合は、せっかく作成した遺言書が無効になってしまうので注意が必要です。
● 未成年者
● 遺言の内容と利害関係のある人:
○ 遺言によって財産を受け取る人(推定相続人や受遺者)
○ 上記の人たちの配偶者(夫や妻)、直系の血族(親、子、孫など)
● 公証人の関係者:公証人の配偶者、親族、書記、使用人など
「身近に適切な証人が見当たらない」という場合は、公証役場で証人を紹介してもらうことができます。ただ、その場合は1人あたり5,000円~10,000円程度の費用がかかるのが一般的です。
公正証書遺言の作成に必要な書類

公正証書遺言を作成するためには、公証役場での手続きの際に、いくつかの書類を提出する必要があります。
● 遺言者ご本人の実印と印鑑登録証明書(発行から3ヶ月以内)
● 証人に関する情報:
住所、氏名、生年月日、職業などを記載したメモ、また運転免許証など本人確認書類が必要な場合もあります。
● 財産を受け取る方に関する書類:
相続人である場合はその方の戸籍謄本、相続人ではない方(受遺者)の場合は住民票などが必要です。
● 財産に関する書類:
不動産がある場合は登記簿謄本や固定資産評価証明書、預貯金通帳のコピーなど、それぞれの財産が特定できる書類を準備しましょう。
公正証書遺言の作成手順

公正証書遺言は、一般的に次の手順で作成が進められます。
- 公証人との事前打ち合わせと遺言内容の確認
まず公証役場に連絡し、公証人との面談を予約します。予約後は、当日作成予定の遺言書の内容についてメールなどで確定するのが一般的です。公証人があなたの意向を詳しく聞き取り、法的に正しい形になるようにアドバイスしてくれます。
- 公証役場での遺言書の作成と確認
予約した日時に、遺言者ご本人と2名の証人が公証役場に出向きます。公証人が作成した遺言書を読み上げ、内容に間違いがないことを確認したら、遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名・押印して完成です。
- 遺言書の交付と保管
完成後、遺言者には公正証書遺言の「正本(せいほん)」と、希望する数の「謄本(とうほん)」が交付されます。遺言書の原本は、公証役場で厳重に保管されます。
- 作成手数料の支払い
最後に、遺言書の作成にかかる手数料を公証役場に支払って、全ての手続きが終了します。手数料は、遺言の内容や財産の価額によって異なります。
公正証書遺言の作成にかかる手数料について

公正証書遺言を作成する際は、公証人に支払う手数料が発生します。この手数料は、遺言書に記載する財産の価額(評価額)によって、以下のように法律で定められています。
目的の価額(財産の評価額) | 基本手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超200万円以下 | 7,000円 |
200万円超500万円以下 | 11,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 43,000円 |
【手数料に関する補足】
この手数料の他に、書類取得費用や、証人を公証役場や弁護士に依頼する場合の費用なども発生します。具体的な費用については、公証役場や当事務所にご相談いただければ、事前にお見積もりを提示することが可能です。
あなたの想いを確実に未来へつなぐために
公正証書遺言は、手間や費用がかかるという側面もありますが、今回ご紹介した7つのメリットにある通り、「確実に法的に有効な遺言書を作成したい」「ご家族に余計な負担をかけたくない」「自分の想いを確実に伝えたい」とお考えの方には、最もおすすめできる遺言書の形式です。
私たち鈴木・五嶋法律事務所では、公正証書遺言の作成をご希望される方のために、公証人との打ち合わせサポート、必要書類の準備、証人の手配など、あらゆる面でお手伝いさせていただきます。お客さまの想いを丁寧にヒアリングし、それが確実に遺言書に反映されるよう、親身にサポートいたしますので、どうぞご安心ください。
次回のコラムでは、遺言の中身について、どのような内容で書いていけばよいか、ポイントを解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

弁護士 五嶋良順
●私立栄光学園卒業/明治大学法学部卒業/慶應義塾大学法科大学院修了
●2017年弁護士登録
●第二東京弁護士会所属
●生まれ育った地元・湘南の弁護士法人に約7年間勤務。交通事故、労働問題、相続問題、離婚問題、不動産に関する問題などの一般民事や中小企業法務の経験を積んだ後、鈴木・五嶋法律事務所を開設。1件1件の事件を専門家としてテーラーメイドな対応をしていくことを心がけている。